印 刷  『あるむの詩』28(2000.03)より

 「あるむ印刷工房」という名称を「あるむ」と変更しましたが、印刷業を営む作業所であることには変わりはありませんでした。 もちろん「印刷工房」という名称をはずしたのは、それなりの意図があったようですが、今となっては判然としませんが……。 (ただ、補助金を貰うにあたって「障害者も働いている印刷屋」ではなくなってしまったことが大きかったようです。)
 でも、あるむのキャッチフレーズは障害を持つものも持たないものも共に協力してやって行く「街の印刷屋さん」であることには変わりはありません。

 それでは「何故、印刷屋なの」と聞かれると思いますが、あるむ創立者である堀場信昭さんが、 障害をもつ仲間といっしょにやって行く仕事としてたまたま「印刷」を選びました。 チラシやポスター、パンフや、文集や機関紙誌、そして出版も考えていました。 印刷は多種多様な難易の落差の多い工程があり、接客も含めて一つの作業所の中で、 色んな職種を選べるという点も大きかったのではないか、と思います。 (もっとも、純粋に印刷を考えた時、分業化していない印刷会社は大企業である大日本印刷や凸版印刷は別として、 経営効率がよくありません。みなさんも印刷屋というと印刷機をまわしている所しか想像できないかも知れませんが、 編集・デザイン・版下業、製版業、狭義の印刷業、そして製本業とあり、その他カラー専門や封筒・製袋専門業と様々あります。) あるむはその点経営効率は芳しくありませんが、版下から製本までやる・やれる体制になっています。

 そもそも作業所は、「障害者地域作業指導事業実施要領」に書かれてある通り、「主に就労することが困難な在宅障害者に対し、 作業訓練等を行い、地域社会の一員として生活することを促進するもの」と位置付けられています。 あるむの事業計画の共働事業方針では「(1)所員の豊かな職業生活をめざし、各自に合った機械設備などを導入し技能の習得、 作業意欲の向上に努めます。(2)印刷事業の充実と発展を通し、生活できる収入をめざします。 (3)印刷事業の特性を活かし、出版などについての取り組みを計画します。」と述べています。

 仕事は好き嫌いや得手不得手がありますが、大仰にいえば「障害をもっている人こそ、職業選択の自由が保障されるべき」と考えています。 もちろん、誰もが望む職業に就けるわけでもないし、だいたい自分に向いている仕事をはっきりわかっているかどうか難しい事です。 高賃金など望むべくもない(過労死はいやだ!)ですが、一日の大半を過ごす作業所こそ、充実した(楽しい!)時間を送れる場所であることこそベストです。 でも、あるむは「印刷屋」として同業他社に遜色のない仕事をやりたいし、やらなければならないと思っています。そうです、私たちは「プロ」なのです。

 「折り」という簡単な軽作業ではあれ、一折り=二円という単価でお客様から代金をいただいています。 (実際は買いたたかれて、五十銭!程度の見積もりをしなければならない時もありますが。)ワープロ入力もそうです。 もっと難しいデザインの仕事は頁あたり3,000〜5,000と高くなります。
 「楽して稼ぎたい」のは万人の声であるむも例外ではありません。無理して最新の機械を導入したりするのも、 生産性向上というよりは「楽したい!」ことの方が大きいかも知れません。(使いこなすまでが大変だョー影の声)

 あるむは障害の種類、程度を問わずに、「やりたいこと・やってみたいこと」があれば入所して貰っています。 そして習うより慣れろです。少し時間はかかりますが、みんな印刷の仕事をこなしています。

 少し説明すると、ワープロ入力(みんな、パソコン操作だけでなく、あるむで漢字の勉強をしています。)、 写真植字(これは機械操作だけで一年ぐらいかかります。向いてない人、やりたくない人もいます。 まぁこれはパソコン関係も同じですが)、編集・デザイン(「クォークエクスプレス」や「イラストレーター」のソフトを駆使しています。これは大変!)、 細かく分ければ「写真のトレペ掛け」やスキャナーでの読み取りと修正、まだまだ組み版関係は細分化されます。
 ワークシェアリングはあるむの得意とするところです。そして「焼き」といってますが 刷版製作作業から、 紙版(ピンクマスター)製版作業。印刷に移ればカード印刷機(名刺、ハガキ専門)から、A3判汎用機、 カラー印刷も出来るあるむ自慢のハイデル印刷機(残念ながらこれはまだ使える所員はいませんが)。 製本では、折り、丁合、穴あけ、ひも通しなどの軽作業。事務作業としては、アクセス、エクセルを使ったデーター管理など (まぁ、これは職員も四苦八苦で勉強中)。

 印刷屋の辛いことを最後に付け加えれば、受注産業なので、「客待ち」「仕事待ち」の状態が続くかと思えば、 五つ六つも仕事をかかえて納期に追いまくられることです。そして、部門別に仕事の強弱がありすぎることも、大変です。 一日中、暇なところもあれば、休日出勤をやらなければこなせない部署も出てきます。 でもこうした悩みは社会ではあたりまえの事(ノーマライゼーションですか?)です。暇な時は表に出て、道の清掃でもしましょう。 何しろ「愛される街の印刷屋」をめざしているのですから。